メイン会場は東京国際フォーラム
メイン会場は東京国際フォーラム
[画像のクリックで拡大表示]

 2014年3月21~23日に東京都内で開催された第78回日本循環器学会学術集会では、会長特別企画として「ゲノム科学の新展開」と題するシンポジウムが開かれた(関連記事)。東京大学 先端科学技術研究センターの油谷浩幸氏と同大学 医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟氏が座長を務め、両氏を含む4人が講演した。

 最初に登壇した油谷氏はゲノム解析の最新トレンドを紹介した。最先端シーケンサーを使うことで、1人当たりのゲノム解析コストは2014年には約1000米ドル(10万円)まで下がる見通しという。SRA(sequence read archive)と呼ぶゲノム解析データのアーカイブに蓄積されたデータ量は、2014年に1P(ペタ:10の15乗)バイトに達する見込みである。同アーカイブのデータ量は最近9年間で1000万倍に増えたという。「半導体のMooreの法則よりもデータ生成ペースが速いことが(ゲノム解析データの蓄積に関する)課題となっている」と油谷氏は述べた。

 続いて登壇した横浜市立大学医学研究科遺伝学の松本直通氏は「大動脈瘤・乖離のレアバリアント探索」と題して講演。遺伝子変異を伴う循環器疾患に関する最新の研究成果を披露した。大動脈瘤・乖離を引き起こす遺伝子異常は多岐にわたり、少なくとも34種類の遺伝子異常が見つかっているという。この遺伝子異常の解析にはスループットの高い手法が必要で、次世代シーケンサーと呼ばれる最先端シーケンサーの利用が最も有望とした。

 同大学の研究グループでは、最先端シーケンサーを用いることで「メンデル遺伝性疾患」と呼ぶ遺伝性の循環器疾患に関連する16種類の遺伝子を単離することに成功した。今後、次世代シーケンサーがさらに使いやすい環境になれば、「遺伝性疾患が疑われる場合に、効率よく遺伝子異常を調べられるようになる」(松本氏)とした。

 東京大学医学部健康医科学創造講座の森田啓行氏は、心筋梗塞に関連する遺伝子の解析結果などを発表した。日本人の心筋梗塞に関連するSNPs(一塩基多型)を、大規模ゲノム解析によって探索した結果を示した。

 宮野氏は、油谷氏が紹介したゲノム解析のコストトレンドに触れ、「誰もが自分のDNA情報を利用できる時代が到来した」と語った。ただし大規模なゲノム解析には膨大な計算リソースが必要であるとして、東大 ヒトゲノム解析センターでも計算リソースが不足している現状を指摘した。